2020年は気候変動対策において重要な年です。パリ協定の採択から5年経過し、各国は2030年の温室効果ガス削減目標の更新を目前にしています。この削減目標や国が決定した貢献(NDC)は、パリ協定の中核をなすものであり、気候の世界的な目標を達成するために各国が行った取り組みを具体化したものです。
2020年3月、日本は更新されたNDCを発表しました。環境省は現在、都市や都道府県の関与など、野心を高めることを可能にする政策の実施とイニシアチブの支援に注力しています。 2020年9月、欧州委員会は、2030年までの欧州の削減目標を、現在の40%から55%に引き上げる計画を発表しました。今後10年間、欧州はこの目標と共に、2050年までに気候に中立な最初の大陸になるための道を歩んで行きます。
このウェビナーでは、欧州委員会と環境省が、気候変動対策に対する野心と取り組みについてそれぞれ最新動向をご紹介します。また日欧の各企業にて、パリ協定やNDCが各分野の事業活動の変化にどのように影響を与えているかについてもご紹介します。
プログラムファシリテーター:CDPジャパン・シニアマネージャー高瀬香絵 氏
ウェビナーのオープニングで、駐日欧州連合代表団の副代表であるハイゼ・シーマーズは、「気候変動は私たちの時代の決定的な問題である」と述べました。 彼は、政府の設定目標と民間および消費者の行動の必要性を認識し、全利害関係者による協力の重要性を主張しました。
また、「欧州委員会は、EUの排出削減目標を2030年までに55%に引き上げるという提案を発表したばかりです。 同時に、日本は気候変動への更なる取り組みを強化しています。」と述べ、パリ協定の実施における2020年の重要性を強調しました。
欧州連合の気候行動総局代表であるトム・ヴァン・アイアーランド氏は、我々が困難な時期に直面しているこEU発表しました。EUは、世界で初めて気候中立を達成する大陸になることを目標にしている一方、現在の欧州連合の目標値と政策のままだと、2050年までに60%の排気ガスしか削減することができないです。したがって、更に強くて明確な目標を至急作成することで、EUの経済と社会をゼロエミッション達成に導くことができます。そのためには、2030年の目標数値を現在の-40%から-55%に引き上げることを要します。
このような気候変動への取り組みは、EUに社会的・経済的な利益をもたらすだけでなく、大気汚染の低減などの環境面でも利点があります。
この移行には、あらゆる分野からの貢献が必要となります。エネルギー分野では、EUは2030年までに再生可能な電力のシェアを少なくとも65%に、再生可能な冷暖房のシェアは40%にします。また、建物の修理率を2倍にする必要があります。自動車輸送では、2030 年には 1km あたりの CO2 排出量と乗客の CO2 排出量を半減することが可能です(2021 年比)。また、大型自動車は水素を利用したものが大切であります。
現在の 40%削減目標から55%に引き上げるためには、2021年から2030年までの間に、年間900億ユーロの投資が必要になります。法的枠組みを更新することで、企業に法的安全性と予測可能性を提供し、投資を正しい方向に導くことできます。そのためにまず、新しい目標数値である55%を正式に採択します。そして2021年6月までに「EU排出権取引制度」、「土地利用と林業に関する指令」、「再生可能エネルギーとエネルギー効率政策」、「自動車効率の基準」をすべて更新する必要があります。また、新たなカーボンボーダー調整メカニズムも提案されています。
EUが気候変動に対して野心を強く持っていても、世界の危機はEUだけで解決できるものではありません。世界中の国々、特にG20メンバーは、より意欲的な行動を取る必要があります。
ヨーロッパ委員会-気候行動総局(2030年気候目標計)気候変動への野望のステップアップ (英語)Download環境省の地球環境局総務課、脱炭素社会移行推進室長、坂口義輝氏からは、「最近の日本の気候変動行政の動向」と題した発表がありました。
日本は今年3月にNDCを提出、2030年度までに26%削減目標、2050年までに80%削減目標を確実に達成することを目指すとともに、この水準に留まることなく更なる削減努力を追求していく方針を新たに表明しました。(注:このウェビナーの約1週間後、菅首相は、日本が2050年までにカーボンニュートラルに到達することを目指すと発表しました)。また、これに基づき、地球温暖化対策計画の見直しに着手し、COP26(2021年11月)までの見直しを予定しています。このレビューには、持続可能で回復力のある回復に関するオンラインプラットフォームRedesign 2020を確立するための9月の小泉進次郎環境大臣によるイニシアチブの立ち上げに沿って、COVID-19の影響に関する考慮事項が含まれます。
また、日本はできるだけ早期に「脱炭素社会」(実質排出ゼロ)を実現します。2020年3月のNDC提出を契機として、「地球温暖化対策計画」と新型コロナウイルスの影響を考慮しつつ、延期されたCOP26のスケジュールの見直しに着手します。その後の削減目標の検討は、エネルギーミックスの改定と更なる削減努力を反映した意欲的な数値を目指します。パリ協定に沿って、数値や取り組みの見直しを5年ごとに提出します。
2020年7月3日に、梶山経済産業大臣が閣議後会見において、「非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、今月中に検討を開始し、取りまとめるよう事務方に指示」と発表しました。
また、2020年7月9日に決定したインフラ海外展開に関する新戦略の骨子において、石炭火力発電の輸出の方針を変更しました。
環境省:最近の日本の気候変動行政の動向(日本語)Download日本ロレアル代表取締役社長のジェローム・ブルハット氏は、民間企業が気候変動に対して何ができるかを説明しました。化粧品の世界的リーダーとして、「ロレアルが行う全てのことは、外部に有意義なインパクトを与えられる。」と述べました。
ロレアルはすでに外部機関からその取り組みが認められています。例えば、CDPのトリプルAスコアを4年連続で達成しているのは世界で唯一ロレアルしかいないです。フランスロレアルでは、気候だけでなく、土地利用、水、生物多様性など、惑星の境界線を考慮した活動を変革するために、科学に基づいた目標を設定しています。ジェローム・ブルハット氏は、「企業の成功というのは、経済、社会、環境、の全てに成果を収めたことをいう。」と述べています。
フランスロレアルは2020年に、パリ協定のスケジュールに沿って、今後10年間で持続可能性への取り組みを加速・強化することを目的とした新戦略「L’Oréal for the Future」を発表しました。ロレアルは2030年までに全世界で、各完成品から発生する温室効果ガスの排出量を50%削減するとしています。
また、製品が環境に与える影響についての情報を提供することで、消費者のエンゲージメントにも取り組んでいます。
日本ロレアルでは、日本にとって最も達成困難とされてるSDG5(ジェンダー平等)やSDG13(気候行動)を含むSDGsの取り組みを支援するために、どのような貢献ができるか手を組んでいます。また、日本ロレアルの施設は2022年までに完全にカーボンニュートラルになる予定です。日本ロレアルは、キールズがテラサイクル社と協力してプラスチック容器の回収とリサイクルに取り組むなど、様々なブランドとのパートナーシップを展開しています。
日本ロレアル:将来のためのロレアル(日本語・英語)Download株式会社リコーからは、エグゼクティブスペシャリスト、サステナビリティ推進本部のESG推進リーダーである羽田野洋充氏により、「脱炭素社会の実現に向けたリコーグループの取り組み」と題した発表がありました。
リコーはCOP 21の公式パートナーとして国連とフランスに選ばれ、イベントに「安全で持続可能な印刷インフラストラクチャ」を提供し、パリ協定の採択を求める他の企業の仲間に加わりました。
2017年には、パリ協定の方向性に刺激を受け、環境品質に関する新たな声明を発表し、2030年と2050年の目標を設定しました。同年に、リコーは日本企業で初めて RE100に加盟し、2050年までに100%再生可能電力を使用することに専念しています。その後、同社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、日本気候行動サミット宣言、包括的成長ビジネスイニシアチブ(B4IG)などにも参加・支援しました。
リコーは2020年3月に、気候変動対策の世界的な傾向に合わせ、加速が必要かつ可能であることを示す環境目標を見直すことに決めました。例として、2030年の自社排出の温室効果ガス削減目標を2015年比で従来の30%削減から63%削減に改定をしました。2050年の目標に最終的に達成するために業務の全過程で対応していきます。同社は、SBTからの1.5°Cターゲット認証や「1.5°Cのビジネス野心」キャンペーンなど、ビジネスにおける気候変動対策に関する他の国際的なイニシアチブにも参加しました。
これらの目標を達成するために、海外のリコーの工場や施設で取り組みが行われています。例えば、フランスにあるリコーの工場は、再生可能エネルギーで運営されています。その他の取り組みとしては、省エネ対策、車両の電気自動車への切り替え、グリーン証明書の購入、持続可能性に関連したローンの利用などがあります。リコーはまた、2030年までにCO2排出量をさらに削減するために実施できる他のの解決方法に取り組んでいます。
リコー: 脱炭素社会の実現に向けたリ取り組み(英語)Download リコー: 脱炭素社会の実現に向けたリ取り組み(日本語)Download欧州と日本の気候変動対策の経済効果、EUで提案されているカーボン・ボーダー調整メカニズム、消費者の役割など、様々なトピックについて、パネリスト全員が参加者の質問に答えながら議論をすることができました。
また、民間部門と公共部門のお互いの期待と思いについても意見交換が行われました。ロレアルのジェローム・ブルハット氏は、政府は消費者や企業に環境問題に対して行動を促すために、国民の意識改革に取り組むべきだと述べました。今年の夏から開始されたプラスチックの有料化を良い例として述べていました。リコーの波多野氏は、日本は再生可能エネルギーについて明確なビジョンを持つべきであると述べ、EUが2030年までに電力の65%を再生可能エネルギーで賄うという将来の目標からヒントを得ることができると述べました。
気候行動総力代表のトム・ヴァン・アイアーランド氏は、「大気中へのCO2排出を止めなければ気候変動は止まらない」と強調し、政府が提供する規制の枠組みと民間企業の投資選択との間で、官民のステークホルダーが脱炭素化について積極的な議論を行うことが重要であると主張しました。欧州では、2018年に重工業企業の者が「脱炭素化をする自信はあるが、脱炭素化製品の需要を生み出すための公的支援が必要だ」と述べていました。